社会・政治
トクをするのは「上位2%」のエリート老人だけ…「在職老齢年金」基準引き上げで「サラリーマンの負担ましまし」専門家が警鐘
![トクをするのは「上位2%」のエリート老人だけ…「在職老齢年金」基準引き上げで「サラリーマンの負担ましまし」専門家が警鐘](https://data.greengay.org/wp-content/uploads/2024/12/06163217/nenkin1_1_thumb_jiji.jpg)
“サラリーマンいじめ” が進む年金部会(写真・時事通信)
一定の収入がある高齢者の厚生年金を減額する「在職老齢年金」制度。現行では、60歳以上で、毎月の賃金と厚生年金の合計額が50万円を超えると、受け取る厚生年金が半額になり、さらに一定額を超えると全額カットされる仕組みだ。この制度の改正をめぐり、巷で非難の声が相次いでいる──。
11月25日、厚生労働省は、同制度の適用基準額を月50万円から、①62万円に引き上げる案、②71万円に引き上げる案、③制度そのものを廃止する案の3案を、社会保障審議会・年金部会に提示した。
【関連記事:「税金泥棒」今井絵理子、国会“決め決め”写真が大炎上…“落選危機”の最後の悪あがき】
今回の改正案の目的について、経済担当記者がこう話す。
「基準見直しには、高齢者の働き控えを防ぐ狙いがあります。しかし、試算によると、基準額を62万円に引き上げた場合、およそ20万人の年金給付が増え、年間1600億円の財源が必要となります。また、71万円に引き上げた場合、給付はさらに7万人増の27万人となり、年間2700億円の追加財源(合計で4300億円)が必要となります。
高給を得ている高齢者にとって今回の引き上げは朗報ですが、そのぶんの負担をかぶることになる現役世代にとっては “いい迷惑” でしょうね。給料は上がらず、税金や社会保険料の負担に苦しむ若い世代の反発は必至でしょう」
では、専門家は、今回の見直し案をどう見ているのか。
経済評論家の加谷珪一氏は、「払ったぶんの年金を受け取る権利は誰にでもあるので、減額基準額の引き上げそのものは検討してもよいでしょう」と前置きしつつ、「結論から言うと、“金持ち優遇” になる」と指摘する。
「60歳をすぎて高額所得を得ている人のほとんどは、学者や経営者、専門家などいわゆるエリートで、この人たちは、わずかな年金のために仕事をやめる可能性は低いでしょう。
今回の制度改変の対象となる年金受給者は、こうした上位2%弱の高額所得者のみで、98%の国民には関係ありません。したがって、働き控えの解消にはつながらないでしょう」
在職老齢年金が廃止された場合、年間4300億円の財源が必要になる。この財源を誰が負担するのかという問題もある。考えられるのは2つのパターンだ。
「4300億円を既存の年金会計から拠出する場合、一般年金受給者の年金が減ることになります。一方、年金会計ではなく税金で負担する場合は、現役世代の負担となります。
おそらくですが、既存の年金会計から拠出することになると思われますから、現役世代ではなく、一般年金受給者が負担することになります。この人たちは、制度改変のメリットがないにもかかわらず、単純に受給が減ることになるのです」(加谷氏)
慶應義塾大学大学院教授・岸博幸氏の見立ては少々異なり、“現役サラリーマン世代” が負担増の憂き目にあうと言う。
「今回の対象者は、厚生年金の保険料を払ってきた人たちですから、増額された年金を受け取ることはなんの問題もありません。ただ、基準額の上限を上げれば、当然のことながら、そのぶん年金の財源は減ります。この負担を現役世代に押しつける可能性は高いでしょう。
厚労省は、今回、国民年金の水準を3割底上げする案も示しましたが、そちらの財源はサラリーマンが加入する厚生年金の積立金。つまり、現役世代と企業の負担を増やすことによって、財源不足を補う目論見です。
この理由は簡単で、厚生年金に入っているサラリーマンは源泉徴収で年金保険料を必ず納めています。つまり、『取りやすいところから取って、それで赤字をまかなう』ことがいちばんの問題なんです。
自営業の人は、自分で年金保険料を払わなくてはいけませんが、さまざまな免除も多いですし、そもそも年金保険料を払っていない人も多いのです。
加えて言うと、専業主婦の人は『第3号被保険者』といって、保険料を払わなくても国民年金をもらえますから、国民年金はずっと赤字でした。そして、その赤字も厚生年金でまかなってきたわけです。
サラリーマンと企業の負担で国民年金の赤字をまかない、その上、国民年金の水準を上げた結果、裕福な高齢者には年金が目一杯支払われています。
いまのままでは若年層の不公平感は収まらないでしょうから、負担と給付が見合った形に、年金制度を抜本的に改革しないといけません」
日本は「シルバー民主主義」と言われるように、政策の多くが老人向けで動いている。そのため、いくら現役世代が怒ろうと、老人優遇は粛々と進んでしまう。しかし、本当にサラリーマン世代の味方となる政党はないのだろうか。
「ないんですよ。それも問題の一つです。国民民主党は『103万円の壁』の問題で、税金については一生懸命やっていますよね。ただ、この年金問題については何も言わないんです。立憲民主党も同じ。石破自民党も厚労省の言いなりでだんまり。
その理由は、年金の話を言い出したら、必ずどこかに痛みをともなうからです。
たとえば、『第3号被保険者』つまり専業主婦も保険料を払わないとおかしいよねと言ったら、当然、専業主婦が損をして、痛みをともなうことになるじゃないですか。年金は制度を変えると、必ずどこかに痛みが来るわけです。
ということで、年金改革では野党も足並みを揃えるんですね。本来、国民の将来の話なんだから、与党にしても野党にしても耳の痛い話ですが、負担と給付の話をしっかりして、持続できる制度にすることが大事なんです。
でも、結局、自民党はじめ、どの政党も『将来これだけ年金が増えますよ』と耳ざわりのいいことしか言わないんです。与野党が言わない結果として、制度がどんどん悪くなっているんです」(岸氏)
その弊害は、いつも現役世代を直撃する。またも「負担ましまし」となる現役世代のサラリーマンからすれば、「ふざけるな!」という話だろう。